ダイアトーン DS-66EXのレストア(その3) レストア後の最終総合特性編

<レストア後の最終総合特性編>
ウーハーとミッドレンジ、ツイーターに対するエッジの柔軟化を主体とした初期特性の回復の試みは一通り完了しました。そこで、密閉型エンクロージャーに各ユニットを戻して周波数特性を確認してみました。ネットワークはそのまま使用しています。

インピーダンスの周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519132050j:imageレストア前に比べると、ウーハーによるピークが、102Hzから56Hzと大幅に低くなっていることが分かります。レストア後のスピーカシステムの共振先鋭度Qtc は、Qtc=0.78でした。密閉型エンクロージャーでは、通常周波数特性が最大平坦となるQtc=0.707程度で設計しますが、10%程度大きな値になっています。ツイーターによるピークは素直な山形ですが、ミッドレンジによるインピーダンスピークピークは少しイビツな形状でした。

出力音圧レベル(SPL)の周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519132251j:image黒線で示したレストア前の周波数特性は、ツイーター軸上を測定基準軸(design axis) として、前方30cmでの測定です。青緑色の曲線は、レストア後に同じ位置関係で測定した結果です。①エッジの軟化によって低音域が広がっていること、②3700Hz近傍の鋭いディップがやや小さくなっていること、が分かります。

3700Hz近傍のディップが気になるので、測定基準軸をツイーター軸上から、ミッドレンジとツイーターの中点の軸上30cmに変更してみました。赤線で示すように、3700Hz近傍のディップは更に小さくなり、500Hz以下の中低音域での5dB位の音圧低下も解消されています。このことから、DS-66EXのdesign axis(聴取位置)はツイーターとミッドレンジの中間くらいの位置に設定して、ネットワークが設計されているように思います。当初、先入観からdesign axisをツイーター軸上に取りましたが、間違いだったようです。当時の別売スピーカスタンドの高さは20cmなので、リスニング位置としては床から60〜70cmになります。床或いは畳に座って聴くことを想定していたのでしょうか?

<最終総合特性>

スピーカの最終的な総合特性は、 ツイーターとミッドレンジの中点の軸上60cmでのFar field特性と、バッフルステップを考慮して4π空間に変換したNear field特性とを350Hzでマージして表示しました。

f:id:soundlabtune:20230519132409j:image数百Hz近傍、及び数千Hz近傍で2〜5dB程度の音圧低下が見られるものの、思っていたよりはずっと平坦な周波数特性が得られました。

最終的な再生周波数帯域は、60Hz〜20kHz(±3dB)、40Hz〜20kHz(±10dB)となりました。姉妹機のDS-77EXでは、公表されているの音圧周波数特性から、55Hz〜20kHz(±3dB)、40Hz〜20kHz(±10dB)程度と推察されますので、今回のレストアしたDS-66EXの周波数特性は、当時の特性をある程度再現できているように思います。

<ネットワークの最適化>

最後に、レストアしたDS-66EXに対して、ネットワークを最適化したら音圧周波数特性がどうなるのかを検討してみました。

エンクロージャーにウーハー、ミッドレンジ、ツイーターの各ユニットを取付けて、ネットワークの無い状態で Far field特性 を測定しました。測定基準軸(design axis) は、ツイーターとミッドレンジの中点の軸上で、前方60cmとしました。なお、ウーハー特性はNear field特性を4π空間に変換して、350HzでFar field特性 とマージしています。得られた各ユニットの周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519133416j:image各ユニットの音圧レベルはほぼ同じで、殆ど差があまりません。

ウーハー、ミッドレンジ、ツイーターの各ユニットに対してネットワーク設計を行いました。クロスオーバー周波数は、オリジナルと同じ700Hzと5000Hzとし、アコースティックスロープは4次のLinkwitz-Riley型(LR4)としました。

シミュレーションで得られた総合周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519133504j:image比較的フラットな周波数特性が得られました。

このときのネットワークを示します。

f:id:soundlabtune:20230519133539j:image位相の整合性を見るために、Reverse nullを確認したところ、対象的な深いディップが得られました。

f:id:soundlabtune:20230519133602j:image今回、シミュレーションによってネットワークの最適化を行ったところ、周波数特性は下図のようでした。

f:id:soundlabtune:20230519133639j:image元々付いているネットワークと比べると、

① 再生周波数帯域は、60Hz〜20kHz(±3dB)程度で余り変わらない、

②数百Hz付近の音圧低下も変わらない、

③数千Hz近傍での音圧レベルは平坦になり、音圧低下は解消されている、ことが分かります。

既存のネットワークに比べると、音圧特性はかなりフラットになっている印象はありますが、費用対効果を考えると躊躇してしまいます。

DS-66EXの真価を実感するには”音量を出せる空間”が必要かとは思いますが、暫くはネットワークはそのままにして、お気に入りのバッハ、モーツァルトなどのクラッシックを中心に音楽を楽しみたいと思います。

<終わり>