TV用サウンドプレートの作製

我家の42型のTVは、中低音が貧弱で高音が耳につきます。そこで、TV専用のスピーカを製作することにしました。

TVは自作のTV台の上に載せてありますが、場所が狭いのでスピーカの置き場所は限られます。市販のサウンドバーであればTV台の上に置けますが、改善したい低音はあまり期待できません。

1️⃣ TV専用スピーカの構想

そこで、サウンドバーほどの高さで、奥行を広くとったスピーカを作製しようと思います。「サウンドプレート」とでも呼ぶのでしょうか。

イメージとしては、図1のように現状のTV台の上に、自作する左右チャンネルのサウンドプレートを並べて載せ、その上にTVを置こうと思います。

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図1 自作するサウンドプレート(茶色)の設置イメージ

2️⃣ サウンドプレートの設計

高さは10cm以下にはしたいので、スピーカユニットはFOSTEXのP650Kを使用することにしました。振動板の直径は5.2cm、最低共振周波数は157Hzのユニットです。このサイズのユニットになると低音域はかなり制限されてしまいますが、高さとの兼ね合いで選択しました。

スピーカタイプとしては、ダブルバスレフ(DBR)型を採用しました。外形サイズは、83Hx440Wx280D(使用状態)、板厚は12mmです。ダブルバスレフを採用した大きな理由は、側板が大きいので、第一キャビネットと第二キャビネットの仕切板を側面の補強材として利用するためです。

SPL周波数特性が出来るだけ平坦になるように、シミュレーションソフトを用いて検討しました。第一キャビネットを2.4L、第二キャビネットを3.4Lとして、第一ダクト、第二ダクトの寸法を決定しました。

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図2 シミュレーションによる周波数特性

低音域は90Hz程度から再現できそうなので、現状のTV音声に比べて、ある程度の音質改善が期待できそうです。なお、第二ダクトは、一本だけだと面積が取れないのでダブルダクトにしました。また、P650Kの高音域特性を改善するために、ツイータを追加して2wayスピーカにします。

3️⃣ サウンドプレートの製作

スピーカボックスの材料には、コンクリート型枠材であるコンパネ材を使用しました。この材料は、価格がリーズナブルなだけでなく、シナ合板やランバーコアよりも高密度でエンクロージャー材として優れているように思います。また、板の表面は綺麗なので、合板の木目を活かした塗装もできます。

板厚12mmのコンバネ材から、所定サイズの板を切出し、背面板以外を接着してエンクロージャーを作りました。背面板は、調整、メンテナンスのために、ネジ止めにして脱着できるようにしました。

水性オイルステインのマホガニーを塗った後、ツヤあり透明ニスを4回塗ってエンクロージャーを完成させました。ニス塗装前に比べるとピカピカになり、高級感が出ました。

塗装後、スピーカボックスのバッフル板には、スピーカユニットP650K、ツイータ、ダクト2本を、また背面板には、ケーブル端子を取り付けました。図3に、完成したTV用サウンドプレートの外観を示します。

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図3 完成したサウンドプレート(上:表面、下:裏面)

4️⃣ P650K単独でのサウンドプレートの周波数特性

ダクトから放出される定在波を抑えるために、天板、並びに第一キャビネット片側面にポリエステル吸音シートを少量はり、底板には5mm程に薄く剥いだフェルトを敷きました。

吸音材やツイータ、ダクトなどを全て取付けた状態で、P650K単独でのSPL周波数特性とインピーダンス特性を測定した結果を図4に示します。

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図4 P650K単独での SPL並びにインピーダンスの周波数特性(ツイータ軸上30cm)

インピーダンス特性を見ると、山が三つと谷が二つあります。谷の周波数に注目すると、300Hzと120Hz付近にあり、シミュレーションでの第一ダクトと第二ダクトの共振周波数とほぼ一致しています。

SPL周波数特性は、シミュレーションと異なり凸凹していますが、比較的フラットで全体的な傾向は概ね想定通りになっています。

最低再生周波数はシミュレーションと同じ90Hz程度です。400Hzと3,500Hz付近では大きなディプを生じ、17kHz以上で音圧が急激に低下しています。400Hzでのディブはダブルバスレフ特有のものですが、想定よりも5dB以上深くなっています。3,500HzでのディップはP650Kユニットのエッジ共振によるものです。12.7kHzに見られるビークは、振動板のBreak-upです。これ以降、ボイスコイルの駆動力が正しく振動板に伝わらないために音圧が急激に低下します。ツイータ軸から15°、30°での軸外特性 SPL変化測定しました。併せて軸上特性も示します。

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図5 P650K単独でのツイータ軸からの軸外特性(0°、15°、30°)

7kHz位からSPLが低下し始めて、軸外角度が大きい程低下が大きいことがわかります。軸外角度15°でも、12kHzから20kHzで10dB以上音圧が低下することが分かります。

このP650Kユニット単独の状態で、バッハの無伴奏チェロ組曲トッカータとフーガを聴いてみました。なかなかスケールの大きな、迫力のある音がします。また、FMで人の声を聞くと、男性も女性も、声が明瞭に聞き取れます。ツイータ無しでも、TV専用スピーカとしては充分満足な性能でした。

5️⃣ ツイータを追加したサウンドプレートの周波数特性

当初の構想では、P650Kの高音域を改善するために、本格的な2wayにしようと思っていました。作製したP650K単独のSPL周波数特性をみると概ねフラットなので、P650Kはスルーとして、ツイータだけにハイパスフィルタ(HPF)を入れた簡易なネットワークにしようと思います。

用いたツイータの主な仕様は、

形式:20mmシルクドームツィーター(ネオジウム磁石)

インピーダンス:6Ω

最低共振周波数:2000Hz

再生周波数帯域:fo~>20kHz

出力音圧レベル:〜87dB/W(m)

入力:30W

です。

図6は、ツイータをケーブル端子に直付けしたときのSPL特性とインピーダンス特性です。P650KのSPL特性も併せて示します。ノーブランド品ですが、良好な特性です。

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図6ツイータとP650Kの単独での直付SPL特性とツイータのインピーダンス

ツイータに用いるHPFは、6dB/oct と12dB/oct の2種類を試しました。

Case1 (6dB/oct); ツイータに直列に1μFフィルムコンデンサを接続し、アンプに対してツイータ を逆接続。

Case2 (12dB/oct);  ツイータに直列に 1μFフィルムコンデンサ、並列に0.047mHコイルを接続して、アンプに対してツイータ を正接続。

ツイータに、Case1 (6dB/oct) とCase2(12dB/oct)のHPFを接続したときのSPL周波数特性変化を図7に示します。なお、P650Kは、何れの場合もケーブル端子に直付の正接続です。

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図7  ツイータに6dB/oct、並びに12dB/octのHPFを接続したときのSPL周波数特性

6dB/oct のフィルタの場合には、図6で示したツイータのSPLが大きい1.5kHz以上の周波数で、ツイータ無しに比べると、SPLが2〜4dB程度増加しています。これは、①HPFでの減衰が小さい、②6dB/oct フィルタのシミュレーションによると、1.5〜15kHzの範囲でP650Kとツイータは同位相になる、ためです。なお、15〜18kHzでは逆位相、18〜20kHzでは同位相と変化します。

一方、12dB/oct のフィルタの場合には、8kHz以上でほぼ同位相になります。この場合、フィルタでの減衰が大きいために、12kHz以下の周波数では殆どSPLへの影響は無く、12kHz以上の周波数でSPLの低下を補っています。

6dB/octと12dB/octのどちらのフィルタが良いのか、少し悩みましたが、6dB/octフィルタを採用しました。分割振動の影響でSPLが低下する3.5〜10kHzでの音圧低下を補えるからです。

6dB/octフィルタでの、ツイータ軸からの角度、0°、15°、30° でのSPLの周波数特性とインピーダンス特性を図8に示します。ツイータ軸からの角度によるSPLの大幅な低下は見られません。

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図8  ツイータ軸外角度、0°、15°、30° でのSPLの周波数特性(6dB/oct HPF)とインピーダンス特性

図5に示したツイータ無しの単独のP650Kの特性と比較すると、高音域でのSPLの極端な低下は無く、リスニング角度による音圧変化が少ないことが分かります。

ツイータにコンデンサ1個だけ付けた簡単なネットワークですが、高音域での周波数特性を大きく改善できました。

6️⃣TV視聴位置でのサウンドプレートの周波数特性

これまでSPLの測定は、便宜上ツイータ軸上30cmの距離で行いましたが、通常のリスニング位置に近い100cmでのSPL周波数特性を確認しておきます。

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図9 リスニング位置でのSPL周波数特性

100cmでのSPL周波数特性を、図8の30cm離れた場合と比較すると、多少の違いはありますが、挙動は概ね類似しています。

TVを視聴する通常の位置では、サウンドプレートからの角度は15°程度なので、再生周波数は、±3dBで80Hz〜20kHz程度になっています。TVの音質改善は大いに期待できそうです。

7️⃣まとめ

作製したサウンドプレートを早速設置してみました。図10はその様子です。なかなか高級感があり、部屋の雰囲気にもマッチしています。

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図10 TVの下に設置 した自作サウンドプレート

TVのヘッドホン端子から音声信号をとり、FOSTEXのミニアンプAP05を介してサウンドプレートの左右チャンネル端子に接続しました。5W+5Wのアンプですが音量は充分で、自動スタンバイ機能があるので便利です。

これまでのTV音声は、中低音が貧弱で高音が耳につきましたが、大幅に改善されました。全体的にはマイルドな音質で、人の声は聞き取りやすく、低音と高音のバランスも良い印象です。

これまで以上に、音楽番組などを楽しめそうです。

〈終わり〉

なお、NHKとフジテレビの放送波には20KHz までの音声が乗っていますが、テレビ朝日では18kHz以上、日本テレビ、TBS、テレビ東京では15kHz以上の音声はカットされているようです。

3インチユニットPM-M0841CKを用いたバックロードホーンの製作

長岡鉄男氏で有名なバックロードホーンには以前から興味がありましたが、通常の密閉型やバスレフ型に比べて大型になってしまうため、製作を躊躇していました。4インチクラスのユニットでも、例えぱFOSTEXのFE103NV2の作例では、170W x320D x880Hの大型サイズで床置きになってしまいます。
今回、コンパクトサイズのバックロードホーンの作製のために、4インチユニットは諦めて、3インチユニットでチャレンジしてみました。

f:id:soundlabtune:20240129121248j:image<製作した完成品の画像>

1) 設計方針
3インチユニットであっても幅広いジャンルの音楽を鑑賞できるように、ワイドレンジな本格的スピーカを作りたいと思っています。

•ブックシェルフのサイズの小型スピーカ
•3インチユニットであっても、60Hzくらいまでの低音再生
•可能な限りフラット なSPLの周波数特性(高音域でのSPL特性はユニットの素の特性でほぼ決まってしまいますが、、、)

3インチのスピーカユニットとしては、PM-M0841CKを使います。以前、このスピーカユニットを使用したダブルバスレフ型スピーカを製作して、11kHz付近にブレイクアップピークが有るものの、その実力を確認しています。
https://soundlabtune.hatenablog.com/entry/2023/02/01/084432

なお、このスピーカユニットは、Amazonで入手できる大変コストパーフォースの高いユニットでしたが、現在は、残念ながら販売していないようす。

2) ホーン形状によるSPLの違い

今回の設計では、”フラット なSPL周波数特性”を目指しています。バックロードホーンのホーン形状は、エクスポネンシャル的に広げるのが通常です。コニカル的或いはパラボリック的に広げるとSPLはどうなるのでしょうか?単純なモデル化を行い、SPLの違いをシミュレーションしてみました。スピーカユニットはPM-M0841CKです。

スロート断面積を17cm2、バックキャビティは0.9L程度、ホーン長は約120cm、エンクロージャーの外形はブックシェルフサイズ の134Wx250Dx350Hとしました。ホーンの広げ方は色々考えられるので、ほんの一例になりますが、ホーン形状を変えたSPLシミュレーション結果を示します。

f:id:soundlabtune:20240123145140j:image〈エクスポネンシャル、コニカル、及びパラボリック的ホーン形状でのSPLの違い〉

エクスポネンシャルとコニカルではホーン形状はだいぶ違いますが、SPLは100Hz以上でのピーク高さに多少の違いがある程度で、本例では全体的にはさほど変わりません。一方、パラボリック的なホーンでは、他のホーン形状で音圧が高くなる100Hz〜300Hzでは2〜5dB低く、200Hz前後のディプでは5dB程度浅くなりました。また、100Hz以下では音圧がなだらかに低下して、低音域も少し伸びているようです。このため、本例のパラボリック的なホーンでは、低音域が伸び、しかも音圧は相対的にフラットな傾向になっています。これまでの経験では、パラボリック的なホーンの方が、総じてエクスポネンシャル的よりも、最低音域での音圧は高くなります。

 3) バックロードホーン BLH PL-lineのエンクロージャーの設計

今回製作するスピーカは、”フラット なSPL周波数特性”を目指しているので、余り前例の無いパラボリック的なホーン形状にチャレンジしました。このホーン形状をBLH PL-line (Back Loaded Hone with Parabolic-Like line)と名付けることにします。

基本的なスペックは、スロート断面積17cm2、バックキャビティ0.88L、開口面積63cm2、ホーン長は約121cmです。このホーンの基本共振周波数は約71Hzになります。

今回設計したバックロードホーン BLH PL-lineのエンクロージャーの3Dイメージを示します。

f:id:soundlabtune:20240123150330j:image〈設計したBLH PL-lineエンクロージャーのイメージ画像〉

スピーカユニットPM-M0841CKのバッフル板への取付けには、以前使用した実績のある市販の3インチグリル用固定枠を用います。また、バッフル板の固定には、吸音材の調整やスピーカユニットの交換ができるように木ネジを使用しました。

4) BLH PL-lineスピーカの製作と初期特性

エンクロージャー材料としては、12mmのMDFボードを使用しました。

ほぼ予定した通りに製作できました。組み立て後の外観画像を示します。(塗装は周波数特性の評価後に実施)

f:id:soundlabtune:20240123150252j:image〈製作したバックロードホーン〉

早速、作製したばかりのBLH PL-lineの特性を測定してみました。吸音材は入れていません。

まずは、ユニット軸上30cmでのSPL の周波数特性、及びインピーダンスの周波数特性を調べました。

f:id:soundlabtune:20240123150655j:image〈SPLとインピーダンスの周波数特性; 吸音材無し; 1/12oct smoothing〉

SPLの周波数変化は、吸音材を入れていませんが、シミュレーションと概ね類似していました。SPLレベルは少し下振れ傾向にはありますが比較的平坦で、また約200Hzや450Hzでのディップの位置や深さも大凡合っています。しかし、最低音域でのSPLは70Hz近傍から急速に小さくなっており、シミュレーションの55Hzとは約15Hz程の違いがありました。

シミュレーションは、実際とは違う所もありましたが、バックロードホーンの設計には欠かせないと感じました。

一方、インピーダンス変化を見ると、インピーダンスの谷は、約76、165、281Hzの所にあり、多少のズレはありますが、それぞれ基音、2倍音、4倍音の共鳴に相当していると思われます。今回のパラボリック形状であっても、典型的なバックロードホーンの共鳴特性になっているようです。

なお、2000Hz以上でのSPL特性変化は、スピーカユニットPM-M0841CKの特性を表しています。前回の使用で欠点と思われた11kHzでの音圧ピークは、このユニットでは比較的低く抑えられていました。ユニットによって少し個体差があるようです。

5) Near Field特性 

吸音材を入れない状態で、ユニット、並びに開口部でのNear Field特性を測定をしてみました。

f:id:soundlabtune:20240123153249j:image〈ユニットと開口部でのNear Field特性; 吸音材無し〉

ユニットのNear Field特性では、ホーンの共鳴周波数に対応したディップが、約73, 170, 270Hzに見られています。(インピーダンスの谷に対応)

また、開口部のNear Field特性では、これまで見られた基音、2倍音、4倍音に相当する73Hz、180Hz、並びに10dBを超える 290Hzでの共鳴ピークの他に、多数の非常に強い高次共鳴ピークが見られます。これらは全て、基音の偶数倍の周波数になっていました。なお、1260〜1800Hzに見られる一連の音圧の主体は、音道内部で発生した定在波と思われます。

今回のバックロードホーンで観察された共鳴ピークについて考えてみます。
一端が開いた閉管(共鳴管)では、閉端が空気振動の節に、開口部が腹になるので、管の長さをLとすると、その基音の周波数fは、f=344/4Lとなります。ホーン長は約121cmなので、一端が開いた閉管であれば、基音の周波数はf=71Hzで、今回のバックロードホーンの基音73Hzとほぼ一致しています。
一方、観測された基音の倍音は、2倍音、4倍音などの偶数倍の周波数、344/4L*(2n)、n=1, 2, 3•••のみで、これは両端が開いた開管の振動モードです。スロート部と開口部は共に空気振動の自由端なので、振動の腹になっているようです。
このように、今回のバックロードホーンでは、基音は、一端が閉じた閉管(共鳴管)の共鳴ですが、その倍音は、両端が開いた開管で生ずる偶数倍での共鳴になっています。倍音が、基音の奇数倍である共鳴管とは全く違う振動様式です。

吸音材のない状態で、馴染みのモーツァルトのピアノ協奏曲などを聴いてみると、周波数特性から受ける荒々しいイメージとは異なり、マイルドでワイドレンジな印象です。男性、女性の声も籠ることなくクリアです。ただ、300Hz付近に代表される高次共鳴ピークのホーン的な響が気になりました。

今回のバックロードホーンの設計では、クロスオーバー周波数を188Hzに設計しましたが、この周波数を超えて発生する高次共鳴ピークは音質の妨げになるので出来るだけ抑制したいところです。

6) 吸音材による高次共鳴ピークの抑制

開口部でのNear Field特性に見られた非常に強い高次共鳴ピークを抑制するために、吸音材の配置を検討しました。主な配置場所としては、①音道の中間部、②空気室、③スロート部、並びに④開口部、です。

これらの場所に吸音材を配置して、開口部でのNear Field特性の違いを調べました。

f:id:soundlabtune:20240123152002j:image〈吸音材の配置による開口部でのNear Field特性の違い〉

① 音道の中間部
破線は、音道の中間部に吸音材を配置した場合です。青色で示した吸音材の無い場合に比べて、全ての共鳴ピークは低周波数側に移動しています。ただ、2倍音での変化は少ないです。この吸音材によるピーク周波数の低下は、通常のエンクロージャーと同じです。
一方、共鳴ピークの強度をみると、最低音域の再生に重要な基音と2倍音ピークへの影響は1dB程度と小さいですが、それ以降の高次の倍音ピークは、4〜6dBと大きく低下しています。1260〜1800Hzに見られる一連の定在波でも、10〜18dBと劇的に低下しています。このように、音道中間部に吸音材を配置すると、高次共鳴ピークや定在波の抑制に非常に効果的な事が分かります。

もう少し詳しく共鳴ピークの変化を見ると、基音と4倍音、さらに高次の偶数次ピークに比べて、2倍音では、低周波数側へのシフトや音圧低下は殆どありません。これは、2倍音、6倍音など、(2n)、n=1, 3, 5•••、で表記される倍音では、音道の中間部は、 空気の振動が生じない節に当たりますが、次数が増えるに連れて節と腹が近接します。2倍音での間隔は60cmですが、6倍音では20cmしかありません。このため、音道の中間部に配置した吸音材で、偶数次倍音であっても、2倍音以外では、空気の振動が抑制されて共鳴ピークが大きく低下するものと考えられます。

②空気室
茶色で示した特性は、音道の中間部と空気室とに吸音材を配置した場合です。基音のピーク位置は殆ど変わりません。2倍音では、音圧変化はありませんが、低周波数側に5Hz程度大きくシフトしています。この他の共鳴ピークでは主に音圧が、1〜3dB程度低下しています。
このように、空気室内部への吸音材の配置は、音道の中間部への配置に比べると効果は少ない印象ですが、最低音域の再生に重要な基音と2倍音に対して、基音には全く影響を与えずに、2倍音のピークのシフトだけに影響を与える、ことが大きな特徴です。
③スロート部
空気室と繋がるスロート内部に吸音材を入れると、共鳴ピークの低下度合は、2倍音(-4dB)>4倍音>基音≒高次偶数次ピーク、となりました。
スロート部への吸音材の配置は、最低音域の再生に重要な、基音と2倍音の共鳴ピークにも大きく影響を与えるので、吸音材の量や種類を慎重に検討する必要があります。
④開口部
開口部に吸音材を入れると、その量と種類にもよりますが、全体的にSPLが大きく低下する場合がありしました。

以上の検討から、最低音域の再生に重要な基音と2倍音の共鳴ピークは出来るだけ低下させずに、高次の共鳴ピークを減衰させには、吸音材を「音道の中間部」、「空気室内部」や「スロート部」に適切に配置することがポイントになりそうです。

なお、吸音材の検討に当たり、バッフル板を取り外しできるようにしたのは、大正解でした。

7) 吸音材によるユニット軸上30cmでの SPLの周波数特性の違い

吸音材の配置によって、開口部からの音圧特性が大きく変わりました。この時のユニット軸上30cmでのSPL の周波数特性の変化を調べました。

f:id:soundlabtune:20240124095759j:image〈吸音材の配置の違いによるユニット軸上30cmでの SPL周波数特性〉

開口部からの音圧を反映した周波数特性変化が見られました。
1)音道の中間部に吸音材を入れると、基音並びに4倍音、6倍音、、、ではピークが小さくなっています。2倍音は全く変わりません。200Hz近傍の大きなディプの形状も殆ど変わりません。
2) 更に、空気室にも吸音材を入れると、基音並びに2倍音、4倍音の共鳴ピークは殆ど変化しませんが、200Hz近傍の大きなディプでは、開口部での2倍音ピークの低周波数側へのシフトを反映して低周波数側にずれ、形状にも変化が見られます。
3) 更に、スロート部に吸音材を追加すると、最低音域の再生に重要な基音と2倍音の共鳴ピークは2dB以上低下して、4倍音以上の高次共鳴ピークも減少しています。200Hzのディプは浅くなりますが、ディプ幅が広がっています。
スロート部への追加前に比べて、全体的にSPL特性が悪化していますが、吸音材の量が多すぎるようです。

以上の吸音材の配置を基にして、更に吸音材の微調整を行いました。調整方針としては、最低音域の再生に重要な基音と2倍音の共鳴ピークは出来るだけ低下させずに、200Hz近傍のディップをできるだけ浅く、狭くなるようにすることです。

音道の中間部の吸音材はそのままにして、空気室とスロート部の吸音材の種類と量を調整しました。最終調整前後でのユニット軸上30cmでのSPL の周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20240124100159j:image〈吸音材の最適化によるユニット軸上30cmでの SPL周波数特性、1/12oct smoothing〉

200Hz近傍のディップ は少し深くなりましたが、幅は狭くなり、また、2倍音、4倍音の共鳴ピークは2dBほど高くなりました。
吸音材の最適化により、より平坦な音圧特性に近づきました。

参考までに、吸音材の無い場合と比較して、この吸音材の最適化後の開口部とユニットのNear Field特性を示します。

f:id:soundlabtune:20240123152559j:image〈吸音材の最適化による開口部でのNear Field特性の違い〉

8) SPLの軸外、並びに1/3oct smoothingによる周波数特性

吸音材最適化後のユニット軸上30cmの軸上、及び軸外15°、及び30°でのSPL周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20240123152717j:image〈最終的なユニット軸上、及び軸外(15°、30°)のSPL周波数特性、1/12oct smoothing〉

200Hz近傍の深いディップ 、10kHz近傍のブレイクアップピークが目に付きますが、当初の目標に近いSPL周波数特性が得られています。ユニット軸外特性は、30°では10kHz以上で急激にSPLは低下しますが、 15°では軸上特性と殆ど変わりません。

以上のSPLの周波数測定では、スムージングは1/12oct を使いました。人の聴覚分解能に近い1/3octの場合ではどうでしょう。

f:id:soundlabtune:20240123154320j:image〈ユニット軸上30cm、100cmでの1/3oct smoothing でのSPL周波数特性〉

ユニット軸上30cmでは、1/3oct smoothingによって鋭いピークやディブは丸められて、より平坦な特性になっています。ユニット軸上100cmでは、測定環境のためか1/12oct smoothingでは特性が暴れてしまいますが、1/3 oct smoothingではキチンと評価できているようです。ユニット軸上のマイク位置がユニットから離れるほど、マイクから見た開口部とユニットとの距離の差は縮まります。このため、相対的に開口部からの音圧が高まり、低音域では2dB程度高くなっています。また、200Hz近傍のディップ は浅く幅は小さくなり、更に10kHz近傍のブレイクアップピークは4dB程度小さくなっています。このため、全体的にフラットな傾向になっています。
このユニット軸上 100cmでの1/3 oct smoothingの周波数特性が、実際のリスニング状況に一番近いものと思われます。

9) 最終的なSPLの周波数特性

ユニット軸上100cmでの1/3oct smoothing での最終的な SPL周波数特性及びインピーダンス特性を示します。

f:id:soundlabtune:20240123152801j:image〈ユニット軸上100cmでの1/3oct smoothing でのSPL周波数特性、並びにインピーダンス特性〉

当初のシミュレーションから予測されたSPL特性と比較すると、
最低音域の肩特性以外は、ほぼシミュレーション通りになっています。

200Hz近傍の14dB程度の深いディップ が気になりますが、シミュレーションからも予想されていたものです。これは、今回のパラボリック音道に固有のものではなく、程度の違いはありますが、特に小型のバックロードホーンでは付き纏う特性のようです。FOSTEXのバックロードホーンの作例でも、しばしば見受けられます。

また、3〜8kHzでの幅広いディップも少し気になりますが、これはある意味、スピーカユニット PM-M0841CKの個性かと思います。この周波数帯域では、スピーカユニットの振動板とエッジが逆共振して、発生する音を打ち消し合っているようです。

160〜240Hzでのディップを除けば、 60〜20kHzの周波数範囲でのSPLの変動は、±5dB 程度には納まっています。

実際に音楽を聴いてみると、吸音材のない時に気になった共鳴ピークによるホーン的な響きは全くありません。また、キンキンする音は無く、人の声も自然で、聴きやすい音質です。60〜70Hz程度からの低音の下支えがあるためか、音の広がりや、スケール感さえも感じられます。

ベートーヴェン交響曲を聴くと、その雄大さが実感出来ました。また、ジャズを聴いても全く不満がありません。

3インチスピーカ、侮る無かれ!

<終わり>

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<補足>
測定データを元に、ユニットと開口部の位相変化 に注目して、200Hz近傍でのディップの生成について考えました。


f:id:soundlabtune:20240123155556j:image〈ユニットと開口部の位相変化による200Hz近傍でのディップの生成〉

ユニットと開口部からの音の位相を調べると、ユニットの位相は、基音70Hz以下の低周波数から6倍音の450Hz付近まで変わりません。一方、開口部からの位相は、ユニットの位相に対して、基音より低い周波数では逆相、基音から2倍音の150Hz付近までは同相ですが、150Hz付近から4倍音の260Hz付近までは再び逆相になります。このため、基音70Hz以下の周波数でのSPLの低下、更には、2倍音と4倍音の間の200Hz近傍で大きなデップが生じることになります。
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Isobaric方式スピーカの製作 〜SONYスピーカSS-M95HDのアップサイクル〜

1)  SONYスピーカSS-M95HDの印象

20年近く前の2007年に発売されたSONYの4inクラスの2wayバスレフ型スピーカSS-M95HDがあります。

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メーカのサイトによると、このスピーカの特長は、
•120mmの軽量で丈夫な「アラミド繊維製コーンウーファー」を搭載。
•カーボンEDツイータ、25mm径「カーボングラファイトコンポジット振動板」を採用。
•L字型のダクトの採用で、キレのあるパワフルな低音を再生。
•寸法:150Wx250Dx290H、重さ:4kg
とのこと。

以前、Amazonで評判の良い3inスピーカユニットPM-M0841CKを用いてフルレンジのダブルバスレフ方式のスピーカを作りました。このスピーカと音を比較すると、SS-M95HDの方が音圧は高いものの、違いがあまり感じられません。20年近く前のスピーカなので経年劣化はあるかとは思いますが、4inクラスの2wayバスレフ型としてはちょっと残念な印象です。

2) SONYスピーカSS-M95HDの周波数特性

SS-M95HDスピーカの実態を確認するために周波数特性を調べてみました。
音圧特性は、ツイーター軸上の30cmの位置でインパルス応答測定で求めました。

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周波数特性は、平坦とは言い難く430Hz、13,000Hz付近のディップ、並びに5,500Hz付近のピークが目に付きます。低域は60Hz程度(-3dB)から出ているようです。
ネットワークを外した状態でのツイーターの周波数特性を示します。

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このツイーターのインピーダンス変化は通常とはかなり違い、2,000Hz付近の共振周波数においても変化は僅かしかありません。ツイーター単独の軸上30cmでの SPL特性については、13,000Hz付近に深いデップが見られました。この特性は、測定したこのツイーターに固有のものではなく、もう一つのツイーターでも同じでした。
ネットワークを外した状態でのウーハー単独の周波数特性を示します。

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ツイーター軸上30cmでの 特性は、6,000Hz以下の周波数では、最初に示した総合周波数特性とあまり変わりません。

これらの結果から、SS-M95HDの総合周波数特性の変化は次のように解釈できます。
•5,500Hz付近のピークはウーハーのbreak-upピークであり、ネットワークのローパスフィルタが不適切なこと。
•13,000Hzに見られるディップはツイーターに起因すること。

経時劣化によるものなのか分かりませんが、この周波数特性を知ってしまうと、今後このスピーカを使用することは無さそうです。
ウーハーのエッジ等には劣化が見られないので、もう1セット用意して、かねてから興味があった「小さなエンクロージャーで低い周波数から再生できる 」というIsobaric(アイソバリック)方式のスピーカを製作してみたくなりました。

3) Isobaric方式エンクロージャーの設計

Isobaric方式には、幾つか種類があります。

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スピーカユニットの脱着が簡単にでき、しかもエンクロージャー内部に設けるIsobaric用密閉体積を小さくするために、
「MAGNET TO MAGNET」方式を採用しました。なお、Isobaric方式については、下記を参考にさせて頂きました。
https://tkm0730.wixsite.com/mysite/post/isobaric-subwoofer

エンクロージャーは、SS-M95HDよりも一回り大きい180Wx260Dx320Hとしました。この時のバスレフ相当体積は、エンクロージャー内部にIsobaric用の密閉空間や補強材を設けるので約7Lになります。

ウーハーはSS-M95HDの12cmアラミド繊維ウーハーをペアで使用します。これらのスピーカをパラレル接続にして、Isobaric用密閉チャンバー内が定圧になる様に内部配線します。
一方、カーボンEDツイーターは、前述のように13,000Hz付近に深いデップを生ずるため、馴染みの25.5mmソフトドームツィーターに変更しようと思います。

検討しているエンクロージャーの3Dモデルを示します。

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4) エンクロージャーの製作

エンクロージャーの素材は、ホームセンターで入手したラワンランバーコアを使用しました。エンクロージャー組み立て後、突板テープを木口に貼り見映えを良くしました。塗装は、下地を’赤との粉’で整えてから、’水性オイルステインのマホガニー’で着色して、’透明ツヤありウレタンニス’を三回塗り重ねて仕上げています。

製作したIsobaric方式スピーカの外観を示します。

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〈背面板を外した様子。Isobaric方式の背面ウーハーユニットが見えます〉

5) Isobaric方式の動作確認

Isobaric方式の動作が実現しているのかを、T/Sパラメータをもとに確認しました。
予めSS-M95HD単体のT/Sパラメータを測定しておきました。Isobaric方式でのT/Sパラメータは、今回製作したエンクロージャーを利用した簡易的な測定です。測定結果を下表に示します。

f:id:soundlabtune:20231006070418j:imageIsobaric方式では、理論的には Fsは変化せず、等価質量Mms は2倍、機械コンプライアンスCmsと等価体積Vasは1/2になります。測定値は、ユニット特性のバラツキや簡易T/Sパラメータ測定のためか、理論通りではありませんが、理論に沿った変化になっています。このため、製作したユニットペアでは、 概ね Isobaric方式の動作を実現できているものと思います。

このIsobaric方式のT/Sパラメータを用いて音圧シミュレーションを行ってみました。ポート共鳴周波数Fbを51.2Hzとした場合には、比較的素性の良い周波数特性が得られ、低音域は46Hz(-3dB)程度から再生できています。

実際にはどんな周波数特性になりますか、、、

6) 取付けたユニットの裸周波数特性

エンクロージャーにユニットを取付て、ネットワークの無い状態での裸特性を測定しました。

Isobaric方式 ウーハーのツイータ軸上30cm 前方での周波数特性を示します。

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インピーダンスのピーク位置は、オリジナルに比べて5〜15Hz程度、低域側に移動しています。
•SPLは、70〜1,500Hzで比較的平坦な音圧特性です。
•オリジナルに比べて、50〜70Hzの低音域では音圧が大幅に増加。50Hz (±3dB)くらいから再生できるようです。

更に、ツイータ のツイータ軸上30cm前方での周波数特性も測定してみました。

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•ツイータの共振周波数は1.500Hz。この周波数近傍で は、SPLは10dBほどの大きなピークが見られます。
•3,000Hz以上ではSPLは比較的平坦で、音圧はIsobaric方式のウーハーに比べて8dB程度高いことが分かります。

ネットワークのクロスオーバー周波数としては、ウーハーのブレイクアップピークと、ツイータの共振周波数近傍でのピークを極力避けるために、3,000Hzに設定しようと思います。

7) クロスオーバーネットワークの検討

ネットワークを検討するにあたり、SPLのインパルス挙動の解析にはUnsmoothed DFT freq. res.を用いました。クロスオーバー周波数を3,000Hzに設定し、クロスオーバーのターゲットスロープは4次のLinkwitz-Riley型(LR4)としました。

最終的なネットワーク回路図を示します。

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このときの、シミュレーションの総合周波数特性を示します。

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SPLは比較的平坦で、4dB程度の幅に収まっています。なお、このときの Revers nullは-25dB程度になりました。

8) ネットワークのボードへの実装

前回検討したネットワークの設計図に基づいて、6mmのMDFボードにハイパスフィルタ回路とローパスフィルタ回路を別々に実装しました。コイルは、特性値が合う手持ちのコアコイルを再利用し、また、一部コンデンサは容量調節のために並列で使用しました。素子の特性値は、全数測定しています。

完成したネットワークボードの外観を示します。手作り感が満載ですね。

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上:ハイパスフィルタ回路
下:ローパスフィルタ回路

9) Isobaric方式スピーカの総合周波数特性

完成した各ネットワークボードをエンクロージャー内部の背面板、及び底板に取付け、内部配線を行なって最終的な周波数特性を調べました。なお、エンクロージャーの振動を低減するために、シート状の制振材を天板内側に貼り付け、また、定常波の低減のために、シート状の吸音材を底面及び両側面下部に少し入れました。

ツイータ軸上30cm 前方での SPLの周波数特性の測定結果を示します。

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ほぼ設計通りのSPL周波数特性が得られました。オリジナルよりも50〜70Hzの低音域に於いて音圧が大幅に増加し、50Hz〜20kHzの周波数範囲で、およそ±3dBの比較的平坦な音圧特性になりました。また、Unsmoothed DFT freq. res. でのRevers nullは、設計通りの深いdipが得られています。

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ウーハーとポート由来のインピーダンスのピーク位置は、オリジナルに比べて5〜15Hz低域側に移動しています。また、クロスオーバー周波数近傍では、ネットワーク回路に起因して少し複雑な変化をしていますが、10Ω程度の値なので問題は無さそうです。

エンクロージャー正面のツイータ軸からの角度によるSPLの変化を調べて見ました。

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ツイータ軸からの角度が0°と15°では、SPLに殆ど変化はありませんが、30°になると、特に10kHz〜20kHz周波数帯域でSPLが大きく低下することが分かります。±15°程度の角度範囲であれば、スピーカ本来の実力が発揮できそうです。

10) Isobaric方式スピーカのまとめ

今回、一つのエンクロージャーにSONY製SS-M95HDの12cmアラミド繊維ウーハーを2個使用して、Isobaric方式のバフレフ型スピーカを作りました。

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エンクロージャーサイズは180Wx260Dx320Hと比較的小型ながら、再生可能周波数領域は50Hz〜20kHz(±3dB )と、低音域から高音域まで再生できるワイドレンジなスピーカに仕上がりました。

実際に音を聴いてみると、低音域から高音域までバランス良く音が出ています。特にジャズやポップスでは重低音が響きます。低音域、高音域ともに貧弱だったSONY製SS-M95HDスピーカを、Isobaric方式でアップサイクルできて良かったです。

このIsobaric方式のバフレフ型スピーカで、普段聴いているモーツァルトのピアノ協奏曲やクラリネット協奏曲、バッハの無伴奏バイオリンソナタなどを中心に、暫くのあいだジックリと聴き込んでみたいと思っています。

終わり

ダイアトーン DS-66EXのレストア(その3) レストア後の最終総合特性編

<レストア後の最終総合特性編>
ウーハーとミッドレンジ、ツイーターに対するエッジの柔軟化を主体とした初期特性の回復の試みは一通り完了しました。そこで、密閉型エンクロージャーに各ユニットを戻して周波数特性を確認してみました。ネットワークはそのまま使用しています。

インピーダンスの周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519132050j:imageレストア前に比べると、ウーハーによるピークが、102Hzから56Hzと大幅に低くなっていることが分かります。レストア後のスピーカシステムの共振先鋭度Qtc は、Qtc=0.78でした。密閉型エンクロージャーでは、通常周波数特性が最大平坦となるQtc=0.707程度で設計しますが、10%程度大きな値になっています。ツイーターによるピークは素直な山形ですが、ミッドレンジによるインピーダンスピークピークは少しイビツな形状でした。

出力音圧レベル(SPL)の周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519132251j:image黒線で示したレストア前の周波数特性は、ツイーター軸上を測定基準軸(design axis) として、前方30cmでの測定です。青緑色の曲線は、レストア後に同じ位置関係で測定した結果です。①エッジの軟化によって低音域が広がっていること、②3700Hz近傍の鋭いディップがやや小さくなっていること、が分かります。

3700Hz近傍のディップが気になるので、測定基準軸をツイーター軸上から、ミッドレンジとツイーターの中点の軸上30cmに変更してみました。赤線で示すように、3700Hz近傍のディップは更に小さくなり、500Hz以下の中低音域での5dB位の音圧低下も解消されています。このことから、DS-66EXのdesign axis(聴取位置)はツイーターとミッドレンジの中間くらいの位置に設定して、ネットワークが設計されているように思います。当初、先入観からdesign axisをツイーター軸上に取りましたが、間違いだったようです。当時の別売スピーカスタンドの高さは20cmなので、リスニング位置としては床から60〜70cmになります。床或いは畳に座って聴くことを想定していたのでしょうか?

<最終総合特性>

スピーカの最終的な総合特性は、 ツイーターとミッドレンジの中点の軸上60cmでのFar field特性と、バッフルステップを考慮して4π空間に変換したNear field特性とを350Hzでマージして表示しました。

f:id:soundlabtune:20230519132409j:image数百Hz近傍、及び数千Hz近傍で2〜5dB程度の音圧低下が見られるものの、思っていたよりはずっと平坦な周波数特性が得られました。

最終的な再生周波数帯域は、60Hz〜20kHz(±3dB)、40Hz〜20kHz(±10dB)となりました。姉妹機のDS-77EXでは、公表されているの音圧周波数特性から、55Hz〜20kHz(±3dB)、40Hz〜20kHz(±10dB)程度と推察されますので、今回のレストアしたDS-66EXの周波数特性は、当時の特性をある程度再現できているように思います。

<ネットワークの最適化>

最後に、レストアしたDS-66EXに対して、ネットワークを最適化したら音圧周波数特性がどうなるのかを検討してみました。

エンクロージャーにウーハー、ミッドレンジ、ツイーターの各ユニットを取付けて、ネットワークの無い状態で Far field特性 を測定しました。測定基準軸(design axis) は、ツイーターとミッドレンジの中点の軸上で、前方60cmとしました。なお、ウーハー特性はNear field特性を4π空間に変換して、350HzでFar field特性 とマージしています。得られた各ユニットの周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519133416j:image各ユニットの音圧レベルはほぼ同じで、殆ど差があまりません。

ウーハー、ミッドレンジ、ツイーターの各ユニットに対してネットワーク設計を行いました。クロスオーバー周波数は、オリジナルと同じ700Hzと5000Hzとし、アコースティックスロープは4次のLinkwitz-Riley型(LR4)としました。

シミュレーションで得られた総合周波数特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519133504j:image比較的フラットな周波数特性が得られました。

このときのネットワークを示します。

f:id:soundlabtune:20230519133539j:image位相の整合性を見るために、Reverse nullを確認したところ、対象的な深いディップが得られました。

f:id:soundlabtune:20230519133602j:image今回、シミュレーションによってネットワークの最適化を行ったところ、周波数特性は下図のようでした。

f:id:soundlabtune:20230519133639j:image元々付いているネットワークと比べると、

① 再生周波数帯域は、60Hz〜20kHz(±3dB)程度で余り変わらない、

②数百Hz付近の音圧低下も変わらない、

③数千Hz近傍での音圧レベルは平坦になり、音圧低下は解消されている、ことが分かります。

既存のネットワークに比べると、音圧特性はかなりフラットになっている印象はありますが、費用対効果を考えると躊躇してしまいます。

DS-66EXの真価を実感するには”音量を出せる空間”が必要かとは思いますが、暫くはネットワークはそのままにして、お気に入りのバッハ、モーツァルトなどのクラッシックを中心に音楽を楽しみたいと思います。

<終わり>

 

ダイアトーン DS-66EXのレストア(その2) ミッドレンジ編 & ツイーター編

<ミッドレンジユニット編>

<ミッドレンジユニットの特性調査>

エンクロージャー から取り出したミッドレンジユニットです。金属ネットは外してあります。

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ミッドレンジのインピーダンス特性を調べました。

f:id:soundlabtune:20230519125726j:image共振周波数fsのピークは高音域側に裾を引いていました。このようなインピーダンス特性は、単一ユニットでは見たことがありません。463Hz でのスピーカユニットの通常の振動系の他に、700〜800Hz付近にも別の振動系があるようです。これは、このユニットだけでなく、もう一つのユニットでも同じでした。

振動板に触れてみると、エッジはカチカチで固着状態です。このエッジは、ウーハーと同様の布エッジです。エッジの表側、裏側ともに布目は見えますが、ウーハーに塗布されていたビスコロイド的なものは確認できません。

調べてみると、姉妹機であるDS-77EXのミッドレンジのエッジには、「表面にダンピング材をコーティングした布を2枚貼り合わせた積層クロス」が採用されています。

<参考資料>https://audio-heritage.jp/DIATONE/diatoneds/ds-77ex.html

このため、本ユニットでも「ダンピング材で接着した積層クロス」が使われている可能性があります。このダンピング材が、ウーハーと同様に経時変化によって硬化したと考えれば、カチカチ状態は納得できます。

<ミッドレンジユニットのエッジ軟化>

溶剤系のダンピング材で接着した積層クロスであれば、カチカチのエッジの柔軟性は、ウーハーで使用した「軟化剤」で回復できるように思います。そこで、「軟化剤」を試してみました。エッジ幅 は5mmと狭いので、はみ出さないように塗りました。

インピーダンス変化を示します。

f:id:soundlabtune:20230519125953j:image塗布一日後には、メインの振動系の共振周波数fsは389Hzに下がり、「軟化剤」の効果が認められました。そこで、「軟化剤」の塗布を3回行い、最終的にはfs=361Hzとなりました。なお、第ニ振動系では、共振周波数は変化せずインピーダンスは相対的に小さくなりました。

ネットワークを付けずにユニット軸上30cmでのSPL(出力音圧)の周波数特性を測定してみました。500Hzより低い周波数では、音圧が大きく低下しています。

f:id:soundlabtune:20230519130512j:image「軟化剤」を塗布することにより、カチカチだった振動板は、エッジが細いこともあり大きくはありませんが、やや動くようになりました。今回のエッジの軟化処理によって、本来のユニット特性にだいぶ近づいたように思います。

ツイーター編

<ツイーターの調査>

エンクロージャー から取り出したツイーターの画像です。金属ネットは外してあります。

f:id:soundlabtune:20230519131007j:imageツイーターの振動板には、比弾性率の大きなドーム型チタン金属が採用されています。この振動板を覆うように、頑丈な金属カバーがネジ止めされた構造になっています。この独特の構造は、薄くて脆いチタン金属を保護する目的のようですが、こんなにシッカリ金属に覆われていて、キチンと音が出るものなのでしょうか?

ツイーターのインピーダンス特性を示します。

f:id:soundlabtune:20230519131127j:image共振周波数fsは3100Hzでした。

ネットワークを付けずにユニット軸上30cmでのSPL(出力音圧)の周波数特性を測定してみました。振動板が頑丈な金属カバーに覆われていても音は出ています。 5000Hzより低い周波数では、音圧が大きく低下しています。

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>> レストア後の最終総合特性編に続く

ダイアトーン DS-66EXのレストア(その1) ウーハー編

f:id:soundlabtune:20230518112203j:image<ウーハー編>

Diatone DS-66EXは製造から40年近く経ち、所有するスピーカのウーハーの布エッジは、例に漏れず、カチカチに硬く低音が出ません。そこで、このDS-66EX本来の音を取り戻すことに挑戦しました。

<スピーカ状態の調査>

スピーカの状態を把握すべく、ツイータ前面30cmでの音圧の周波数特性を測定しました。

f:id:soundlabtune:20230518113022j:image100Hz付近以下の低音域では、音圧が大きく低下しており、これでは低音が出ないはずです。また、4kHz近傍に想定外の大きなデップが見られます。本来、音圧の周波数特性は比較的平坦に設計されている筈なので、低音域ばかりではなく高音域においても音圧特性は劣化しているようです。

インピーダンス特性では、ウーハーによるピークが100Hzに、500Hzには高音域側に裾を引くようなミッドレンジ のピーク、4kHzにはツイータのピークがありました。

f:id:soundlabtune:20230518113116j:imageウーハーだけで無く、ミッドレンジやネットワークにも問題があるのかもしれません。

まずは、エンクロージャーからウーハーを取り外してカチカチのエッジの再生から始めました。

ウーハー編

<エッジの軟らかさの指標>

ウーハーエッジがどのような状態なのかを定量的に把握するためにウーハーユニットのインピーダンスを測定しました。

f:id:soundlabtune:20230518113219j:image最低共振周波数fsは110Hzでした。また、このインピーダンス特性から算出される総合共振先鋭度Qtsは1.24、機械的共振先鋭度Qmsは15.7でした。

DS-66EXのカタログデータによると、このスピーカの再生周波数帯域は38Hz〜30kHzなので、密閉型スピーカであることを考えると本来のウーハーユニットの共振周波数は30〜40Hz程度と思われます。現状では、本来の共振周波数とはかけ離れた値になっていることが確認できました。

総合共振先鋭度Qtsが1.24と大きな値なので、振動板に対する制動力が弱く振動的な状態です。また、機械的共振先鋭度Qmsも15.7と非常に大きいことから、エッジが硬く機械的減衰力が極めて小さいことが分かります。

以降のエッジの検討では、最低共振周波数fsと総合共振先鋭度Qts、機械的共振先鋭度Qmsを頼りに、エッジの状態変化を把握したいと思います。

<ウーハーの布エッジの再生>

1)ラッカーシンナーによるビスコロイドの除去

ネットを調べると、カチカチの原因であるダンプ剤として使われているビスコロイドをシンナーで除去した後、代わりに液体ゴムなどを塗布する事例が沢山でてきます。これを参考にエッジの再生を始めました。

取り外したウーハーエッジ裏側の窪みには、ビスコロイドがタップリ塗布してありました。先例に習って窪みにシンナーをスポイトで流し込み、30分程して柔らかくなったところでビスコロイドをヘラで除去しました。除去直後はエッジはかなり柔らかくなり良い感じですが、翌日になると再び硬くなりました。

f:id:soundlabtune:20230518115401j:image図に示すように、シンナーで三回除去した直後の共振周波数fsは41Hzですが、翌日には78Hzに、5回除去した直後の共振周波数fsは34Hzですが、翌日には70Hzと硬化してしまいます。

この時の総合共振先鋭度Qtsは0.39→0.77となり、振動板は制動的な動きから振動的な動きに変化し、また、機械的共振先鋭度 Qmsも8.2→10.5と大きくなりっています。これら共振先鋭度からも、シンナーで処理した翌日には、エッジは再び硬く振動的になっていることが伺えます。

ビスコロイドの除去回数に伴う翌日のエッジの共振周波数変化を下図にまとめました。

f:id:soundlabtune:20230518113455j:imageシンナーでの除去翌日の共振周波数は回数と共に減少しますが、次第にその減少率は小さくなります。9回目でも共振周波数は60Hzと高止まりです。これは、翌日にはシンナーが蒸発して、繊維に染み込んだ残留ビスコロイドが再び硬くなるためです。

共振周波数fsが60Hzでは、DS-66EX本来の音を取り戻すことは困難です。

2)「エッジ軟化剤」の効果

この事態を打開すべく、ネットで販売されている「エッジ軟化剤」を試してみました。’ビスコロイドを軟化させる’とのことで、小さな容器に入った薄赤色の液体です。シンナーとは異なり匂いは殆んど無く蒸気圧が低いものでした。

この軟化剤を、エッジの凸表面全体にはみ出さないように筆で塗りました。30分もするとエッジは柔らかくなり始め、このときの共振周波数は50Hzでした。2時間後で37Hz、6時間後では35Hzになりました。24時間後でも35Hzと硬くなりませんが、一週間経つと39Hzとなり、やや硬くなる傾向にありました。

f:id:soundlabtune:20230518120204j:image次の工程で「エッジ裏側への液体ゴム塗布」を予定しているので、この時点での共振周波数は少しでも低く抑えたいところです。

そこで、エッジに2回目の軟化剤塗布を行い、一週間後の変化を調べました。共振周波数は35Hzと一週間前と全く同じで、エッジの硬化はほぼありません。

f:id:soundlabtune:20230518113752j:imageこの時の総合共振先鋭度Qtsは0.37でした。振動板の動きは、当初の振動的な1.24から、制動的な動きに大きく変化しています。なお、機械的共振先鋭度Qmsは7.5でした。

エッジが柔らかくなったため、ユニット構成パーツのダンパーがようやく本来の役割を担うようになった感じです。ウーハーの元々の Qts値は、0.40程度ではないかと思います。

以上の検討で、ウーハーエッジは程よく軟化できたので、これでビスコロイド軟化対策は完了としました。

3)液体ゴムの選定

軟化剤でエッジは軟らかくなりましたが、シンナーでビスコロイドを徹底的に除去したので、エッジを光に翳してみると布目に空隙が見られ空気が漏れる状態です。そこで、エッジの内側に液体ゴムを塗布して空気漏れを防ぐことにしました。

検討した液体ゴムは、次の4種類です。

①水性液体ゴム(ユタカメイク BE-2;アクリル樹脂、水溶性、シンナー不溶)、

②油性液体ゴム(PLASTI DIP; 合成樹脂、シンナー可溶)、

⓷液体ゴム接着剤(スリーボンド1521B;クロロプレン合成ゴム、シンナー可溶)、

⓸接着剤(セメダイン スーパーX;変性シリコーン樹脂、シンナー難溶)

これらをエッジを模擬した形状の布に刷毛で塗布しました。セメダイン スーパーX (乾燥後は黒色)は元々のペースト自身が硬く、シンナーにも溶けにくいので均一な塗布は困難です。PLASTI DIP(乾燥後は黒灰緑色)と1521B (乾燥後は黒色)は、塗布すると布エッジがゴワゴワとして硬くなりました。一方、水性液体ゴムBE-2(乾燥後はツヤのある黒色)は殆ど硬くならず適度な弾力が有ります。

今回は、軟化させたエッジを再び硬くしたくないので、水性液体ゴムBE-2を選択しました。但し、固化したBE-2は、水だけでなくシンナーにも極微量しか溶けないので、一度塗布すると再び取り除くことはできません。

4)エッジへの水性液体ゴムの塗布

予備検討で、ユタカメイクBE-2の「原液」をエッジの裏側に塗ると、布目の空隙を通して液体ゴムがエッジ表面に滲み出る傾向があったので、始めの3回ほどは原液を半分位の水で薄めてから塗り、その後は原液を塗りました。

液体ゴムには、布の補強や振動板に対するダンプ作用も期待されます。原液を刷毛で均一に塗るのは難しいですが、光に翳して布目が殆ど透けないくらいの厚さまで塗り重ねました。

塗布後のウーハー画像です。エッジは、茶色を帯びた黒色になりました。

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5)ウーハーユニットの最終特性

前回、ウーハーエッジ再生の最終段階として、エッジの裏側に液体ゴムを塗布しました。その結果、エッジは当初とは比較にならないほど柔らかくなり、コーンもスムーズに動くようになりました。

液体ゴムを塗布してから三週間。特性が十分に落ち着いたと思われるので、インピーダンスの周波数特性を測定しました。当初、及び軟化剤塗布後のインピーダンス変化も併せて示します。

f:id:soundlabtune:20230518121458j:image共振周波数fsは、当初の110Hzが、最終的には軟化剤塗布後の35Hzよりも11Hz高い46Hzになりました。また、機械的共振先鋭度Qmsは、当初の15.7が、軟化剤処理で7.5に、更に液体ゴムの塗布により5.3と大きく低下しました。これは、高損失な液体ゴムのダンピング効果で機械的損失が増大したためと思われます。一方、総合共振先鋭度Qtsは、当初の1.24が、最終的には臨界制動状態に近い0.49となりました。

繰り返しになりますが、最終的なレストア後のウーハー特性は、fs=46Hz、Qts=0.49、Qms=5.3、Qes=0.53でした。このユニットのEBP値(Efficiency Bandwidth Product;fs/Qes)=87なので、密閉型、バスレフ型のどちらにも使用可能なユニットのようです。

今回のエッジのレストアによって、fsは少し高めにも感じますが、27cmコーン型ウーハーの本来の特性をかなり取り戻すことができたように思います。

>>次は、ミッドレンジとツイーターの調査を予定しています。

3inchスピーカユニット PM-M0841CKを味わう(5)

5)ダブルバスレフ方式PM-M0841CKのまとめ

評判の良い3インチスピーカユニットPM-M0841CKを用いて、ダブルバスレフ方式のスピーカを自作しました。

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①SPLの周波数特性を調べたところ、11kHz付近にブレイクアップよる大きなピークがありました。

②気になるこのピークを抑制するために、並列型のLCRノッチフィルタを自作して追加しました。

③ この結果、ユニット軸からの角度0°、15°のSPLは、60-20kHzの範囲で、ほぼ±5dBとフラットになりました。

④ 低音は充分出ており、高音もブレイクアップピークの抑制効果もあり、なかなか良い音です。手元にある、ほぼ同じスピーカユニットサイズのBose Wave Music Systemと比較して、本スピーカの方が癖がなく、ワイドレンジで、しかも豊かな表現力を感じます。

ポップス、ジャズやクラッシックなど様々な音楽を、心地良く聴くことができるスピーカができました。