ダイアトーン DS-66EXのレストア(その1) ウーハー編

f:id:soundlabtune:20230518112203j:image<ウーハー編>

Diatone DS-66EXは製造から40年近く経ち、所有するスピーカのウーハーの布エッジは、例に漏れず、カチカチに硬く低音が出ません。そこで、このDS-66EX本来の音を取り戻すことに挑戦しました。

<スピーカ状態の調査>

スピーカの状態を把握すべく、ツイータ前面30cmでの音圧の周波数特性を測定しました。

f:id:soundlabtune:20230518113022j:image100Hz付近以下の低音域では、音圧が大きく低下しており、これでは低音が出ないはずです。また、4kHz近傍に想定外の大きなデップが見られます。本来、音圧の周波数特性は比較的平坦に設計されている筈なので、低音域ばかりではなく高音域においても音圧特性は劣化しているようです。

インピーダンス特性では、ウーハーによるピークが100Hzに、500Hzには高音域側に裾を引くようなミッドレンジ のピーク、4kHzにはツイータのピークがありました。

f:id:soundlabtune:20230518113116j:imageウーハーだけで無く、ミッドレンジやネットワークにも問題があるのかもしれません。

まずは、エンクロージャーからウーハーを取り外してカチカチのエッジの再生から始めました。

ウーハー編

<エッジの軟らかさの指標>

ウーハーエッジがどのような状態なのかを定量的に把握するためにウーハーユニットのインピーダンスを測定しました。

f:id:soundlabtune:20230518113219j:image最低共振周波数fsは110Hzでした。また、このインピーダンス特性から算出される総合共振先鋭度Qtsは1.24、機械的共振先鋭度Qmsは15.7でした。

DS-66EXのカタログデータによると、このスピーカの再生周波数帯域は38Hz〜30kHzなので、密閉型スピーカであることを考えると本来のウーハーユニットの共振周波数は30〜40Hz程度と思われます。現状では、本来の共振周波数とはかけ離れた値になっていることが確認できました。

総合共振先鋭度Qtsが1.24と大きな値なので、振動板に対する制動力が弱く振動的な状態です。また、機械的共振先鋭度Qmsも15.7と非常に大きいことから、エッジが硬く機械的減衰力が極めて小さいことが分かります。

以降のエッジの検討では、最低共振周波数fsと総合共振先鋭度Qts、機械的共振先鋭度Qmsを頼りに、エッジの状態変化を把握したいと思います。

<ウーハーの布エッジの再生>

1)ラッカーシンナーによるビスコロイドの除去

ネットを調べると、カチカチの原因であるダンプ剤として使われているビスコロイドをシンナーで除去した後、代わりに液体ゴムなどを塗布する事例が沢山でてきます。これを参考にエッジの再生を始めました。

取り外したウーハーエッジ裏側の窪みには、ビスコロイドがタップリ塗布してありました。先例に習って窪みにシンナーをスポイトで流し込み、30分程して柔らかくなったところでビスコロイドをヘラで除去しました。除去直後はエッジはかなり柔らかくなり良い感じですが、翌日になると再び硬くなりました。

f:id:soundlabtune:20230518115401j:image図に示すように、シンナーで三回除去した直後の共振周波数fsは41Hzですが、翌日には78Hzに、5回除去した直後の共振周波数fsは34Hzですが、翌日には70Hzと硬化してしまいます。

この時の総合共振先鋭度Qtsは0.39→0.77となり、振動板は制動的な動きから振動的な動きに変化し、また、機械的共振先鋭度 Qmsも8.2→10.5と大きくなりっています。これら共振先鋭度からも、シンナーで処理した翌日には、エッジは再び硬く振動的になっていることが伺えます。

ビスコロイドの除去回数に伴う翌日のエッジの共振周波数変化を下図にまとめました。

f:id:soundlabtune:20230518113455j:imageシンナーでの除去翌日の共振周波数は回数と共に減少しますが、次第にその減少率は小さくなります。9回目でも共振周波数は60Hzと高止まりです。これは、翌日にはシンナーが蒸発して、繊維に染み込んだ残留ビスコロイドが再び硬くなるためです。

共振周波数fsが60Hzでは、DS-66EX本来の音を取り戻すことは困難です。

2)「エッジ軟化剤」の効果

この事態を打開すべく、ネットで販売されている「エッジ軟化剤」を試してみました。’ビスコロイドを軟化させる’とのことで、小さな容器に入った薄赤色の液体です。シンナーとは異なり匂いは殆んど無く蒸気圧が低いものでした。

この軟化剤を、エッジの凸表面全体にはみ出さないように筆で塗りました。30分もするとエッジは柔らかくなり始め、このときの共振周波数は50Hzでした。2時間後で37Hz、6時間後では35Hzになりました。24時間後でも35Hzと硬くなりませんが、一週間経つと39Hzとなり、やや硬くなる傾向にありました。

f:id:soundlabtune:20230518120204j:image次の工程で「エッジ裏側への液体ゴム塗布」を予定しているので、この時点での共振周波数は少しでも低く抑えたいところです。

そこで、エッジに2回目の軟化剤塗布を行い、一週間後の変化を調べました。共振周波数は35Hzと一週間前と全く同じで、エッジの硬化はほぼありません。

f:id:soundlabtune:20230518113752j:imageこの時の総合共振先鋭度Qtsは0.37でした。振動板の動きは、当初の振動的な1.24から、制動的な動きに大きく変化しています。なお、機械的共振先鋭度Qmsは7.5でした。

エッジが柔らかくなったため、ユニット構成パーツのダンパーがようやく本来の役割を担うようになった感じです。ウーハーの元々の Qts値は、0.40程度ではないかと思います。

以上の検討で、ウーハーエッジは程よく軟化できたので、これでビスコロイド軟化対策は完了としました。

3)液体ゴムの選定

軟化剤でエッジは軟らかくなりましたが、シンナーでビスコロイドを徹底的に除去したので、エッジを光に翳してみると布目に空隙が見られ空気が漏れる状態です。そこで、エッジの内側に液体ゴムを塗布して空気漏れを防ぐことにしました。

検討した液体ゴムは、次の4種類です。

①水性液体ゴム(ユタカメイク BE-2;アクリル樹脂、水溶性、シンナー不溶)、

②油性液体ゴム(PLASTI DIP; 合成樹脂、シンナー可溶)、

⓷液体ゴム接着剤(スリーボンド1521B;クロロプレン合成ゴム、シンナー可溶)、

⓸接着剤(セメダイン スーパーX;変性シリコーン樹脂、シンナー難溶)

これらをエッジを模擬した形状の布に刷毛で塗布しました。セメダイン スーパーX (乾燥後は黒色)は元々のペースト自身が硬く、シンナーにも溶けにくいので均一な塗布は困難です。PLASTI DIP(乾燥後は黒灰緑色)と1521B (乾燥後は黒色)は、塗布すると布エッジがゴワゴワとして硬くなりました。一方、水性液体ゴムBE-2(乾燥後はツヤのある黒色)は殆ど硬くならず適度な弾力が有ります。

今回は、軟化させたエッジを再び硬くしたくないので、水性液体ゴムBE-2を選択しました。但し、固化したBE-2は、水だけでなくシンナーにも極微量しか溶けないので、一度塗布すると再び取り除くことはできません。

4)エッジへの水性液体ゴムの塗布

予備検討で、ユタカメイクBE-2の「原液」をエッジの裏側に塗ると、布目の空隙を通して液体ゴムがエッジ表面に滲み出る傾向があったので、始めの3回ほどは原液を半分位の水で薄めてから塗り、その後は原液を塗りました。

液体ゴムには、布の補強や振動板に対するダンプ作用も期待されます。原液を刷毛で均一に塗るのは難しいですが、光に翳して布目が殆ど透けないくらいの厚さまで塗り重ねました。

塗布後のウーハー画像です。エッジは、茶色を帯びた黒色になりました。

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5)ウーハーユニットの最終特性

前回、ウーハーエッジ再生の最終段階として、エッジの裏側に液体ゴムを塗布しました。その結果、エッジは当初とは比較にならないほど柔らかくなり、コーンもスムーズに動くようになりました。

液体ゴムを塗布してから三週間。特性が十分に落ち着いたと思われるので、インピーダンスの周波数特性を測定しました。当初、及び軟化剤塗布後のインピーダンス変化も併せて示します。

f:id:soundlabtune:20230518121458j:image共振周波数fsは、当初の110Hzが、最終的には軟化剤塗布後の35Hzよりも11Hz高い46Hzになりました。また、機械的共振先鋭度Qmsは、当初の15.7が、軟化剤処理で7.5に、更に液体ゴムの塗布により5.3と大きく低下しました。これは、高損失な液体ゴムのダンピング効果で機械的損失が増大したためと思われます。一方、総合共振先鋭度Qtsは、当初の1.24が、最終的には臨界制動状態に近い0.49となりました。

繰り返しになりますが、最終的なレストア後のウーハー特性は、fs=46Hz、Qts=0.49、Qms=5.3、Qes=0.53でした。このユニットのEBP値(Efficiency Bandwidth Product;fs/Qes)=87なので、密閉型、バスレフ型のどちらにも使用可能なユニットのようです。

今回のエッジのレストアによって、fsは少し高めにも感じますが、27cmコーン型ウーハーの本来の特性をかなり取り戻すことができたように思います。

>>次は、ミッドレンジとツイーターの調査を予定しています。